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A-SPICE開発の背景
A-SPICE (Automotive Software Process Improvement and Capability Determination)
ソフトウェア開発は自動車業界では比較的新しい開発手法となり、多くのサプライヤは独自のノウハウで開発を進め『ベストプラクティス』に繋がる規格化されたプロセスを持っていませんでした。
しかし近年は、高まる安全性への要求も増え、自動車における電子システム(ADAS:先進運転支援システム)の導入が著しく、年々システムは大規模化・複雑化がとどまることはありません。
上記のような背景から、ソフトウェア開発における品質向上が自動車業界における課題となり、結果、車載ソフトウェア開発におけるプロセスの定義や評価の指標が規格化されA-SPICEが誕生しました。
ISO9001やIATF16949等との大きな違いは開発プロセスの評価(Assessment)を主軸とし存在するため、評価指標や方法論等が細かく定められています。
IATF16949で規定されている【製品安全】に関する要求事項も参照してみてください。
レベル・能力とプロセス及び評価・判定方法
ASPICEは各プロセスにおける能力達成度を X, Y軸 座標の枠組みに基づき評価されます。
レベル・能力(Y軸)の説明
Y軸は『能力レベル』で構成されており、6段階(0~5)で能力レベルが評価されます。
この『能力レベル』は、更に9個の『プロセス属性』へ分割され、評価されることになります。
『プロセス属性』は、以下の N – P – L – F という4つの指標で評価され、達成度(%)によりこの指標が決定されます。
それぞれの指標の内容と達成度は以下の通りです。
『プロセス属性』をより詳しく知りたい方は、一番上のリンク【Automovive SPICEプロセスモデル(LINK)】よりアクセスいただき PA1.1~PA5.2(表16)を参照してください。
要約すると、ASPICEは5段階(レベル0を含めると6段階)の『能力レベル』で評価されます。
このレベルを決定するために『プロセス属性』という評価基準をもとに評定され導かれます。
プロセス属性と聞くと難しく聞こえますが『そのプロセスがどの程度の属性(レベルや達成度)であったか』を表す指標です。このプロセス属性を元に、プロセス能力レベルを評価していくことになります。
能力レベルとプロセス属性の関係は以下の通りです。
能力レベル | プロセス属性(Process Attributes) |
0 | 全く何もできていない |
1 | PA1.1:必要なプロセスが実施されているが、管理されていない。※次回も同様にできるか不明 |
2 | PA1.1 – 2.2:必要なプロセスが実施され、成果物管理がされている |
3 | PA1.1 – 3.2:プロセスが定義され成果物管理もされ、プロセスが展開(教育)されている |
4 | PA1.1 – 4.2:プロセスが定義され測定可能な状態(KPI等)で定量的分析できる状態 |
5 | PA1.1 – 5.2:プロセスが定量的分析できる状態で永続的に革新(改善)している状態 |
プロセスの説明
ASPICEでは活動の種類によって『プロセスカテゴリー』にて分類されています。更にカテゴリーは『プロセス群』という大きな塊に分類されています。
下図の小さな箱がプロセスカテゴリーを示し、色別の大きな箱がプロセス群です。
【Automotive SPICE プロセス参照モデル プロセスアセスメントモデル】より引用
このカテゴリー及び群は、顧客がサプライヤーから製品を納入するまでに使用するプロセスを主として、使用、設計、開発、統合、テストで必要となるプロセスを含んでいることになります。
またASPICEは、組織の3rd Party(外注等)を使用するプロセス(契約、サプライヤ監視、要件、資格認定等)もAssessmentを行うスコープに含まれています。
即ちASPICEの評価結果として下図のような形で示され、各プロセス群における評価結果(レベル)を5段階評価でランク付けされます。
評価・判定の方法
ASPICEの評価を行うには『プロセス実施指標』『プロセス能力指標』及び既出の『プロセス属性(PA)』を理解する必要があります。
プロセス実施指標
プロセスの基本的な取り組み(プラクティス)(BP:Basic Practices(基本プラクティス))と、その取り組みによって生み出される客観的なエビデンス(WP:Work Products(作業成果物))を元に決定される指標です。
上記のような『プロセスで行う基本的な取り組み』と『それによって生み出されるエビデンス』は、プロセス毎に固有のものとなるためプロセスカテゴリー毎に『BP』と『WP』が設定されています。
BPはプロセスの活動重視の指標であり、WPは客観的な結果重視の指標となります。
プロセス能力指標
プロセス能力指数とは、そのプロセスの能力を評価するための指標です。
前述、プロセス実施指標は各プロセスカテゴリーが実施されているのか評価するため指標でしたが、プロセス能力指標は『そのプロセスカテゴリー自体が備えるべき能力を有するレベルになっているのか』を評価するための指標となります。
そのためプロセス能力指標は、プロセス実施指標とは対照に全プロセスカテゴリー共通となります。
プロセス能力指数は以下通りです。
全プロセスに共通したプロセス能力評価指標(GP:共通プラクティス)
全プロセスに共通したプロセスを運営するうえで必要な資源(GR:共通リソース)
よって、プロセス能力指数は、プロセスにおいてマネジメント視点での取り組み(GP)をこなしているのか、またそれをこなすリソース(GP)が確保されているのかを評価していくことになります。
プロセス属性
ASPICEには、上記のような『プロセス実施指数』や『プロセス能力指数』といった評価者が定量的にプロセスを評価できるような指標が存在しており、それを元に客観的事実を集めながら評価者が組織のプロセス能力レベルとプロセス属性(PA)判定を行います。
評価・判定における概要説明
上記で説明した『プロセス実施指標』『プロセス能力指標』及び『プロセス属性』『プロセス能力レベル』の関係は下図で表すことができます。
能力レベル | プロセス属性 | 指標 | 備考 |
0 | 何もできていない | ー | ー |
1 | PA1.1 | プロセス実施指標 | プロセスの成果を評価する |
2 | PA1.1 – 2.2 | プロセス能力指標 | プロセス自体の能力を評価する |
3 | PA1.1 – 3.2 | プロセス能力指標 | プロセス自体の能力を評価する |
4 | PA1.1 – 4.2 | プロセス能力指標 | プロセス自体の能力を評価する |
5 | PA1.1 – 5.2 | プロセス能力指標 | プロセス自体の能力を評価する |
レベル1以下は、日頃の業務においてプロセスに準じたWPを使用して成果物を残しているのかを問われ、レベル2以上は、プロセス自体の能力評価(マネジメント・管理視点で)が問われます。
即ちレベル2以上の評価を得るには、日頃の業務がどういうプロセスに準じて行われているのかまでを説明する必要があります。QMSや規定・標準類をしっかりと理解を深め評価を受ける必要があります。
なお各能力レベル及びプロセス属性は、前述 N-P-L-F の4段階の達成度を元に判定されます。
能力レベル | プロセス属性 | 達成度 |
0 | ー | ー |
1 | PA1.1:プロセス実施 | PA1.1:L(50% ≦ X) |
2 | PA1.1:プロセス実施 PA 2.1:実施管理 PA 2.2:作業成果物管理 |
PA1.1:F(85% ≦ X) PA 2.1:L(50% ≦ X) PA 2.2:L(50% ≦ X) |
3 | PA1.1:プロセス実施 PA 2.1:実施管理 PA 2.2:作業成果物管理 PA 3.1: プロセス定義 PA 3.2: プロセス展開 |
PA1.1:F(85% ≦ X) PA 2.1:F(85% ≦ X) PA 2.2:F(85% ≦ X) PA 3.1: L(50% ≦ X) PA 3.2: L(50% ≦ X) |
4 | PA 1.1: プロセス実施 PA 2.1: 実施管理 PA 2.2: 作業成果物管理 PA 3.1: プロセス定義 PA 3.2: プロセス展開 PA 4.1: 定量的分析 PA 4.2: 定量的制御 |
PA 1.1: F(85% ≦ X) PA 2.1: F(85% ≦ X) PA 2.2: F(85% ≦ X) PA 3.1: F(85% ≦ X) PA 3.2: F(85% ≦ X) PA 4.1: L(50% ≦ X) PA 4.2: L(50% ≦ X) |
5 | PA 1.1: プロセス実施 PA 2.1: 実施管理 PA 2.2: 作業成果物管理 PA 3.1: プロセス定義 PA 3.2: プロセス展開 PA 4.1: 定量的分析 PA 4.2: 定量的制御 PA 5.1: プロセス革新 |
PA 1.1: F(85% ≦ X) PA 2.1: F(85% ≦ X) PA 2.2: F(85% ≦ X) PA 3.1: F(85% ≦ X) PA 3.2: F(85% ≦ X) PA 4.1: F(85% ≦ X) PA 4.2: F(85% ≦ X) PA 5.1: L(50% ≦ X) |
次レベルを狙うにはプロセス属性の達成度は85%以上がmustです。それに加え最低でも次レベルのプロセス属性は50%以上を確保しなくては、そのレベルと評価されません。
少しわかりにくいので事例を用意しました。とある企業で以下のプロセスカテゴリーについてのassessmentを受けたとします。
Case1(PA1.1:全て L or F の場合)
プロセスカテゴリー | PA1.1 |
SYS.1 | F |
SYS.2 | L |
SWE.1 | L |
SUP.1 | F |
MAN.3 | F |
SUP.2 | L |
レベル | 1 |
Case2(Case1に加えPA2.1/2.2にPが混ざっている場合)
プロセスカテゴリー | PA1.1 | PA2.1 | PA2.2 |
SYS.1 | F | P | P |
SYS.2 | L | L | L |
SWE.1 | L | L | L |
SUP.1 | F | F | F |
MAN.3 | F | F | F |
SUP.2 | L | F | F |
レベル | 1 |
PA1.1は、最低でも(50% ≦ X)のスコアを取得しているので能力レベルはL1
プロセスカテゴリー | PA1.1 | PA2.1 | PA2.2 |
SYS.1 | F | P | P |
SYS.2 | F | L | L |
SWE.1 | F | L | L |
SUP.1 | F | F | F |
MAN.3 | F | F | F |
SUP.2 | F | F | F |
レベル | 1 |
PA1.1は(85% ≦ X)のスコアを取得しているが能力レベルL2未達なので能力レベルはL1
Case4(Case2のPA2.1 / 2.2 で全てL以上を取得した場合)
プロセスカテゴリー | PA1.1 | PA2.1 | PA2.2 |
SYS.1 | F | L | L |
SYS.2 | L | L | L |
SWE.1 | L | L | L |
SUP.1 | F | F | F |
MAN.3 | F | F | F |
SUP.2 | L | F | F |
レベル | 1 |
PA1.1で(85% ≦ X)のスコアを取得できていないので能力レベルはL1
Case5(Case4のPA1.1 全てFを取得した場合)
プロセスカテゴリー | PA1.1 | PA2.1 | PA2.2 |
SYS.1 | F | L | L |
SYS.2 | F | L | L |
SWE.1 | F | L | L |
SUP.1 | F | F | F |
MAN.3 | F | F | F |
SUP.2 | F | F | F |
レベル | 2 |
PA1.1で(85% ≦ X)のスコアも取得できたので能力レベルはL2
上記事例のように、最低でも85%以上のスコアを取得し、かつ50%以上の評価を得ることで次のレベルの判定を受けることができるようになります。
本日のまとめ
- ASPICEは車載ソフトウェア開発におけるプロセスの定義や評価の指標が規格化されたもの
- 能力レベルは『0-5』の6段階評価で決定される
- 能力レベルは『プロセス属性(PA1.1~PA5.2)』ごとの達成度で決定される。
- プロセス属性の達成度は『プロセス実施指標』『プロセス能力指標』というプロセスの実施状況やプロセス自体の能力を評価するための指標が用いられる
- 高いレベルを取得するためには日頃の業務だけではなくプロセス自体への理解度を深める必要がある
- 最低でも85%以上の達成度を取得しないと高いレベルの評価はもらえない
ASPICEの概要は以上となります。
プロセス属性の達成度が決定されるための指標『プロセス実施指標』『プロセス能力指標』は、各プロセスカテゴリーに分けられ、プロセスを評価するために細かな評価項目が設定されています。今後はこの指標に着目した記事を仕上げていく予定です。
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